赤裸々作品解説…コキュートスは嗤う その一

赤裸々作品解説

この物語の原作は江上剛氏による小説「腐蝕の王国」。
本当はこのタイトル大好きで、自分で改めて付けるというのも
抵抗があった。
掲載予定の雑誌は女性向けということもあったので仕方なしに考えた次第。
江上さんは褒めてくれたけど、やっぱり小説版のタイトルが最高。

この小説、結構分厚く活字を全く好まない自分にとっては苦行?と感じたほど。
でも、これがスラスラ読めちゃって何がそんなに楽しかったのかと自問。
それはね。それは読んで見ないと分らないのよ?
まず「藤山」と「西前」という主要キャラの関係性が(ヤクザな商売に身を置く自分にはとても)新鮮。
サラリーマン、エリート、上司、部下。
本格サラリーマン物は実は描きたくて仕方なかったジャンルなのだが全く手が出せない
未知の世界。
OL経験すらないから指を咥えて商社とか中身を想像しながら眺めているだけだった。
このチャンスに飛びついた高口に何の落ち度があろうか。

原作の江上さんはそんなつもりは全くないとおっしゃってたけど、この主要キャラの
関係はBL物を二十年も描き続けてきたわらしくも絶賛。
こんな赤裸々なセリフは自分のキャラにさえ言わせたことないッス!
というほどの名言多数。
「藤山」の前に出ただけで「西前」は処女のように怯えたり、ときめいたり。
りっぱな大人の男性が書いた小説に(しかも無骨なリーマン物)こんな雰囲気
が漂っているとは。大手銀行を見る目も違ってくる。
高口が原作本を抱えてのたうち回っていたのは想像に容易なことだ。

支配する、される。萌える要素の一つではあるけれど決して「愛」なんて言葉では
くくれない二人の関係はやっぱり「強者」と「弱者」なんだろうな。
ここに女が絡んでくるから一層生々しいんだけれど。
しかも、孕ませて産ませてその子供を挟んで繋がりっぱなしの二人。
(作中では「藤山」が手をつけた女子行員の子供を「西前」が引き取る
といって内密に産ませた)
どう繕っても繕えきれない何かを感じてしまう。
斜め読みの大家である高口里純にかかっちゃどんな文豪だってとお思いでしょうが、
そのまんまですから。

この物語を描くにあたって問題が一つ。
主要キャラがほとんど「オヤジ」(40代~)であること。
女性誌に掲載するにはちょっと加齢過ぎるということでオリジナルキャラクター
を出すことに。
江上さんにとてもいい人で、「どうとなり高口さんの好きなようにして下さい」
などいう甘い言葉で高口を増長させてしまったよう。
好き勝手に「藤山」のオトシダネを増やしてしまったり、「五藤」を毒々しくも
麗しい美形にしてしまったりと(あと西前クンをヘタレ眼鏡にしてしまったり)
それでもクレームは何一つなかったのだった。
(うう…ありがたい)
物語も遡って時系列を整理して始めることにした。
だからプロローグは「藤山」五十代初め「西前」アラフォー。
熟年カップル(不適切語)誕生。やる気満々のわらくし。

そもそもこの原作の白羽の矢が当たったのはどうやら因縁の読み切りシリーズ
しかも未完、そのまま放置状態に至っている「将棋の時間」(YOU>集英社)を見ての判断
らしいのだけど、幸運なのか不運なのか複雑。
編集者の期待に添えるよう、編集側の要望を極力受け入れ始めた読み切りシリーズ
「将棋~」だったけどYOU読者の少しの支持もなく結局二作しか描けずに終わった。
これからって時に(なんかいつもこのパターンだよ)強制終了。
そんなに面白くなかったのか今でも分らない。
結局、読者層としては安定した物語が読みたいのか。(BE-LOVEの時を思い出す)
むしろ世間話的、覗き見的な読み物がいいのか、レディースを扱う時唸ってしまうよ。
昔はこんなじゃなかった。
もっとアグレッシヴなものも受け入れOKだったのに。
目新しいものを拒絶し排除する風潮がいつの間にかレディース物に蔓延っている模様。
自分もしっかり読者層なんだけどなぁ。

ちょっと脱線。
レディースには言いたいことは山のように…(いずれ赤裸々に語るか)
とにかく、こんなに楽しく堂々とオヤジBL(BLじゃないけど)をやれるなんて
と始まった「コキュートス~」。
だけどそれも束の間、この作品もジプシーのごとき渡り歩くことになるとは誰
が予想したでしょう。
創刊雑誌だったのに。
あっという間に休刊なんてことがこのご時世良くあることだけど、それにしても
早すぎ。
たった四回しか描けなかった。
それが全三巻完結にどう至ったのか。
涙なしでは語れない。

つづく

コメント

  • 確かに藤山と西前の関係は、BLぽかったですね。
    精神的繋がり、秘密とか嘘とか上下関係とか、
    なんか二人は関係が密すぎて…
    逆に体の関係よりも濃い感じがしました。

    ところで『将棋の時間』、懐かしいですね。
    俺は将棋に興味がなく、ルールも知らないので、
    話についていけなかった口ですが…(汗

    2012年4月24日 2:45 AM | きよ

  • 「将棋」に関しては高口も素人。
    勉強したけど、それをメインでやるつもりはなかったのね。
    どっちかというと「水」の方がメインになっていた。
    「接待将棋」と「競技将棋」の対比はとても面白いと思ったけどなぁ
    中々上手くいかないものだよ…。
    とりあえず兄ちゃんのモデルはオダギリジョーです。(ははは)
    中国将棋は興味深い。

    2012年4月25日 12:44 PM | 殿

  • なんか先生の話聞いたら、
    続きが読みたくなっちゃいました!
    でも二話だけじゃ、どっかの雑誌で
    二話再録して連載復帰!みたく
    ならないと、コミックス化は
    難しいんでしょーね…(´;ω;`)

    2012年4月25日 9:49 PM | きよ

  • 難しいですね~
    実際コミックス未収録ですが中途半端のままだから改めて収録と
    いうことにはならないし。
    これがホントの宙ぶらりんということに…。
    続編やりたいけど切り口変えないとなぁ。
    考えるといろいろ萎える…。
    誰かなんとかしてぇ~~

    2012年4月26日 10:23 AM | 殿

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